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【読書感想】入らずの森 宇佐美まこと

1ヶ月ほど前のエントリ「限界集落関連のミステリー小説」で紹介した『入らずの森 宇佐美まこと著 (祥伝社文庫)』をやっと読み終えました。

想像してたのとはちょっと違ってたけど十分楽しめました。集落の閉ざされた情景描写と伏線の回収の仕方が見事でした。


Amazon.co.jp 内容紹介より
粘つく執念、底の見えない恐怖―― ホラーの俊英が、ミステリ要素満載で贈るダーク・ファンタジー!    小説家・京極夏彦氏「 この昏い森はあなたの奥へと繋がっている。決して入ってはいけない。でも、あなたは必ず入ってしまう。宇佐美まことが紡ぎ出す暝い森からの手招きに、抗うことはできないだろう」 文芸評論家・千街晶之氏「日本という国ならではの怖さを描いた傑作」 文芸評論家・東雅夫氏「落武者から不良少女まで――宇佐美が書いたら滅法こわい!」 陰惨な歴史が残る四国山中の集落・尾峨に赴任した中学教師・金沢には、競技中の事故で陸上を諦めた疵があった。彼の教え子になった金髪の転校生・杏奈には、田舎を嫌う根深い鬱屈が。一方、疎外感に苛まれるIターン就農者・松岡は、そんな杏奈を苦々しく見ていた。 一見、無関係な三人。だが、彼らが平家の落人伝説も残る不入森で交錯した時、地の底で何かが蠢き始める……。

 


舞台は平家落人伝説が伝わる四国山中の集落・尾峨

競技中の事故で陸上を諦めた中学教師・金沢、家庭崩壊で親元を離れた金髪の少女・杏奈 疎外感に苛まれるIターン就農者・松岡、、、この3人が軸となって物語が進むのだが、前半はあまり接点が見えない。金沢と杏奈は教師と生徒という関係ではあるが、あとはもう同じ集落にいるってくらいしか共通点がない。

あまりにも何も起こらずのどかな集落。特に早期退職して就農してきた松岡を見てると田舎暮らしってのもいいなぁ、なんて思ったり。。。 が、この松岡がだんだん不遇になっていく。松岡は尾峨に移り住むにあたり立派な古い民家を購入した。しかしこれが彼の不幸の始まりだった。尾峨に住む宮岡という男にとって、この古民家の持ち主は許しがたい存在であり、松岡がこの古民家を購入したせいでその男の借金が精算できてしまったのが気に食わない。こうして田舎での悠々自適の生活を楽しもうとしていた松岡は宮岡からの理不尽な逆恨み感情を受けることになる。

ただ、松岡も松岡で無農薬農法に拘ったりして周囲の迷惑を顧みないのはどうかと思った。自分はしばらくは無収入を覚悟しているからいいかもしれないが、周囲の生活がかかっている農家からすれば本当に迷惑極まりないことをしている。民家購入の件は彼の非ではないが、農村に就農したからにはそこでのやり方に従うのも必要だろう。

ちょっと「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」事件を彷彿させるような閉ざされた田舎空間ならではの人間関係を感じた。

3人の物語が徐々に1つに収束していく中、いくつかの疑問点が出てくることになる。

  • 尾峨では過去に原因不明の殺人事件が同じ場所で二度起きている。
  • 杏奈の家に天井裏からしか見えない部屋とヤヤコと名乗る5歳くらいの少女が現れる。
  • 3番まであったはずの尾峨中学校校歌が2番までしか伝わっていない。
  • 森の中で正体不明の怪しい物体が蠢き、憎悪の感情を持った者に近づく。
  • 尾峨とは遠く離れたさいたま市の病院に入院する老女と娘の話が挿入される。


こういった数々の疑問が最後に1つにつながる。伏線回収が見事すぎる。



以下、ネタバレ注意!

特に中学教師金沢が謎の少女ヤヤコから入手したさいたま市の病院を訪ねた結果、そこに入院していた老女が尾峨中学校校歌を作曲した女性だったと判明したところは鳥肌モノだった。

そして、森の中で蠢く物体は粘菌が意思を持つまでに進化したモノだった。確かにこの本の前に読んだ『プラチナデータ 東野圭吾著 (幻冬舎文庫)』でも思ったが、細胞の集まりである人間の脳がシナプスのネットワークによって記憶し、意思を持ち、人格を生み出すということであれば、それを再現することは可能じゃないのか、と。

それを再現するのはスーパーコンピュータが一番に思いつくけど、個々は単細胞生物なのにそれらが集まって迷路を解読するような特殊なネットワークを持つ粘菌の進化系であっても不思議ではない。

人類が誕生するずっと前の太古の時代から生死の概念を超越して生き続けてきた粘菌が人類の生み出す産物よりも優れている可能性は否定できない。自然の絶大な力は人類には計り知れないことがまだまだたくさんあるし、この地球上には人類の調査が及ばない場所がまだまだたくさんあるのだから。