全13巻、大人買いしちゃいましたよー。
スゴイって噂は聞いていたけど、「朗読」という全く興味のない分野の漫画だったのでスルーしてました。
ですが、ちょっと気になって電子書籍の立ち読み機能で冒頭部分を読んじゃったんですね。そしたら見事にやられましたねー これは面白い。
絵柄に反してテーマは重め、でも深くてハマる
幼くして両親を亡くし、伯母に育てられた主人公・佐倉ハナ。小さい頃はいつも一人で空を眺めて、雲の形から動物などを思い浮かべては空想物語を作っていた子なんだけど、ある日小学校の学芸会で劇のナレーション役となる。ちょうど教育実習に来た折口先生に朗読の手ほどきを受け、見事にナレーション役を成功させる。これが冒頭のサクセスストーリー。
この時、折口先生から教わったのは、伝えたい気持ちがあれば想いは伝わる、ということ。そしてこれが全編を通してハナの朗読の支えになっていくんですね。
絵柄的には↑にもあるように比較的優しいタッチ。そして登場人物の性格とかも優しい感じの人ばかりなんだけど、ストーリーや設定はかなり重い。先に書いたように主人公ハナは両親を亡くしてるし、他の登場人物も妹を亡くしていたり、何年も引きこもっていたり、両親に捨てられた過去を引きずっていたり、同じ人を好きになってしまったり、同性愛だったり、、、といった感じでちょっと重めのテーマが多い。
この辺りはそもそも文学ってのが重いテーマのものが多いからかもしれない。芥川龍之介も太宰治も自殺しているし、何というか昔の作家って繊細な人が多いイメージ。
そういった鬱屈した気持ちを朗読を通して伝えるワケなんだけど、取り上げる文学作品との親和性も絶妙で、さらに伏線回収も見事だったりするからハマってしまうんだと思う。
これ読んだら国語の授業が楽しくなるかも
そして何よりも驚いたのが、芥川龍之介や太宰治、宮沢賢治といった、小中学校の国語で習うような堅苦しい文学作品が、実はとても魅力的だったということ。
これに気づけたのがこの漫画の一番の収穫かもしれないなー。当時はなかったんだけど、もしこれを読んでれば国語の授業がもう少し楽しめてたかも。
作者や登場人物の視点を意識するなんてのは国語の授業でもやってたはずだけど、当時はあんまり理解できなかった。そんなの人によって捉え方が違うだろ、みたいな感じで。でも実は緻密な計算が仕込まれていて、それを読み解くことで作者の意図に近づくことができるってのがよく分かった。少なくとも感覚論ではなく、論理的に導き出せる意図があるんですね。
それとこの漫画では以下の6種類の視点が絶妙に描き分けられていて、漫画ということで絵の助けもあるので、それが非常に分かりやすい。
- 作者が作品世界の外から
- 作者が作品世界の中に入って
- 作者が登場人物の心の中に入って
- 登場人物が作品世界の外から
- 登場人物が作品世界の中で
- 登場人物が自分自身の心の中で
通常の作品は上記のうちのいくつかが書き分けられているが、芥川龍之介『トロッコ』は上記6パターンが全て使われている天才的作品として紹介されている。
実際、こちらの4巻でその『トロッコ』が題材として出てくるんですが、こういった文学作品の見方が変わりますよ。
小学館 (2012-03-30)
あと一見単調に見える文学作品だけど、そこには映画や漫画のコマ割りのようなもの存在していて、作家が意図的にそういったカメラワークを仕込んでいるんだとか。まじかよ。。。 適当に書いた文章がたまたま当たったのが文豪と呼ばれてる人達だと思ってたわ・・・(´・ω・`)
ちなみに著者の片山ユキヲ先生は朗読に詳しいワケではなく、朗読については東百道先生が協力しています。元々は片山先生が参考文献を探していた時に、たまたま東先生の著書『朗読の理論―感動をつくる朗読をめざして』を手にして、取材に行ったのだとか。この出会いがなかったら、この作品は全然違うものになってたんじゃないかな、と思うととても不思議な感じでした。
小学館 (2010-09-30)
小学館 (2014-09-30)